like electricity

舞踊教育に携わるdance educator。バレエ関係がメインだけれど、ダンス、アート、芸術、教育、人間などなど日々考えることの発信の場。読書感想文もあり。ビビビっとくる何かとロマンを求めて。

ダンスはスポーツか芸術か

以前、留学記の方で投稿してあったものですが、ここを開設したので記事のお引越しです。

 

アメリカの舞踊教育の学会であるNational Dance Education Organizationが2015年5月末に刊行したジャーナルJournal of Dance Education(JODE)に「ダンスはスポーツか?」というタイトルの学生向けの読み物がありました。ダンスをやる人にはおなじみの「はい、出ました、この議題」って感じですね。

 

どこの辞書を調べてもdanceの項目には「スポーツ」ということは一言も書いていない。なのに、なぜ「ダンスはスポーツか否か」という問いがあるのか?

 

記事では、マイケル・ジャクソンやバリシニコフの伝説的な活躍とその魅力について触れたり(彼らは超人的なテクニックやトリックだけではない、芸術的な、あるいはもっとカリスマ的な何かがあったということ)、昨今のコンクールやSo You Think You Can Dance?のようなトーナメント式TVリアリティーショーのもたらす「ダンスにおける競争・競技性」について触れたりしている。

 

中でもわたしが面白いな、と思ったのは、特にTVの影響でダンスがいわゆるお茶の間に広がったけれど…?という論点。

 

暗い劇場で鑑賞中、個々人が悶々と感じている従来の「ダンスの鑑賞」とは異なるTVのダンス・プログラム。パフォーマンスの前にそれまでの練習風景等がオンエアされて、終演後に「エキスパート」の審査員が「これはこうだった」「こう思った」という「評価」をくだせば、視聴者もそれに左右され、誰がトーナメントを勝ち進むかを選ぶ決定権が自分にもある、という指摘。これはこれで面白い指摘だけれど、まぁ新たなダンス鑑賞の形態の登場なんだろう、くらいにしておきます、ここでは。

 

とにかく、そんな環境が定着しつつあるアメリカ(とそのTV社会というかなんというか…)。筆者は、Debate.comというサイトでの「ダンスはスポーツか」というディベートで挙がった匿名意見(反対意見)を3つ紹介しているのだけれど、これがものすごい。(以下「」内の日本語訳と[]内の補足はわたしによるもの。この3つを紹介しているのは元の記事を書いているGuarinoさんです。興味あれば下に原文を当たってください。)

 

「ダンスがスポーツなわけがない!!ダンスは単なる記憶のゲーム[これは多分振りを覚えること、という意味だと思う]。連続回転とかちょっと難しいところもあるかもしれないけど、そんなものは普通の人が1ヶ月もしないで習得できるものだし。」

 

「ダンスには身体活動というものがない。今まで一度もダンスをしていて汗をかいてる女の子なんてみたことない。化粧して、ぐるぐる歩くことだけ覚えてればいいんだし。ダンス鑑賞なんてスポーツ鑑賞よりもつまらない。あぁ、でもスプリッツはすごいと思うけどね。それ以外にダンサーが汗水たらしてやるのなんてストレッチくらいでしょ。」

 

「誰もができるから、ダンスはスポーツじゃない。例えば、ゴルフとかホッケーはプレイするのに才能がいるからスポーツだと言える。今じゃ誰でもダンスはできる。だからダンスはスポーツじゃない。」

 

 

とまぁ、これらは少数意見ではない、ということを筆者のGuarinoさんも言っています。わたしなんて踊っていて汗しかかかないけど!笑 あとは大学の講義でダンスを履修すれば楽にいい成績がとれると思っている学生が多い、とか。そりゃ大学の一般教養や体育にあたる講義だからプロ顔負けの内容をやるわけはないのだけど、それでも「え!ダンスこんな大変なの!?」と思う人は少なくないらしい。

 

ダンスをやっている人間からしたら、どれも見当違いで、びっくりするしかない意見ですが、つまりはダンスの認知なんてその程度なのだ、ということ。今紹介したのはアメリカの現状なので一概にも日本も一緒とは言えませんが、まぁでもそんな変わらないんじゃないのかしらとも思う。むしろ、全くダンスに関係ない人の意見を聞くの面白いよなぁと思っている。ずっとこの世界にいるわたしたちじゃわからないことが見えてくるだろうからね。

 

もうひとつ。この記事で、Jenna GarechtというHuffpostのティーンブロガーの記事も紹介されています。彼女は小さい頃から、アメリカではかなり人口の多いコンペティティブ・ダンスをやっている。直訳すれば競技ダンスだけれど、日本語でいうところの競技ダンスーつまり、いわゆる社交ダンスのようなものーではなくて、それこそSYTYCDでみられるようなダンスを小さい頃からやっている、ということ。彼女はそういう競争があるダンスの中で育ってきたから、ダンスはスポーツだ、と考えている。身体の訓練や大会でのプレッシャー、順位などなど。普通に聞いていたらスポーツと大して変わらないようにも思えます。ただ、彼女はダンスは表現手段でもあるから、芸術でもある、とも言っている(ここの論拠はわたしからしたらうーんという感じだけど、まぁ割愛)。

 

ダンスは身体を使うものだし、その「使う」過程でアスリートが身体を訓練するのと同じような「訓練」が行われているのも確か。一方で「身体表現」と言い表されることが多いダンスはその表現性から「芸術」と認識されることも多い。JODEの記事には、「芸術」と「スポーツ」の二項以外にも「コミュニケーション」としてのダンスということもでてきている。さらに、ダンスをやっている身としてはなかなか思い至らないけれど「スポーツ」にも「芸術」にもひっかからない「中途半端なもの」という認識もあるということ。

 

じゃあ、わたしはどう考えているかと言われれば、今挙げたすべての状況に当てはまる「ダンス」があるのだと思っている。芸術として機能している「ダンス」もあれば、こりゃスポーツだな、という「ダンス」もある。もちろんなんだこりゃという「ダンス」もある。わたしがそれを「ダンス」と呼びたくない、と思ったとしてもそれが「ダンス」として存在してたら、多分そうなんだろう、と思うしかないんじゃないか、ということ。「ダンスはこうであるべきなんだ!」という意見や好みはそれぞれあるだろうし、わたしも屈辱的なこと言われたら悔しいし嫌だけど、それがダンスの性質とか文化みたいなものなのだと思う。いずれにしても、「ダンスはスポーツか芸術か」という問いは白黒はっきりできるものではない。しかし、そこが面白いところでもある。

 

という最終的にはダンスののろけみたいな感じで終わります。

 

【出典】

JODE 記事:Lindsay Guarino (2015) Is Dance a Sport?: A Twenty-First-Century Debate, Journal of Dance Education, 15:2, 77-80, DOI: 10.1080/15290824.2015.978334

 

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